昨今の中国では、フレキシブルワーク(中国語:灵活用工)という労働形態を取り入れる企業が増えています。
このフレキシブルワークとは、会社の業務ニーズに合わせて短期または臨時に労働力を増減すること、またはその様な働き方を指します。広義には、労務派遣、アウトソース、アルバイト、インターンなど、正規雇用以外の労働形態を含みます。外部と内部の環境に合わせ、労働者の数量や業務内容、契約期間などを比較的フレキシブルに調整できることが「フレキシブルワーク」と言われる所以です。
なぜ現在の中国でフレキシブルワークが必要とされているのでしょうか?普段私達がお世話になっているECサイトを例に考えてみましょう。
毎年の10月から翌年の春節にかけ、京東やタオバオなどの大手ECサイトは、大型のセールを何度も催します。
この時期は、通常よりも大幅に受注が増えるので、ECサイトが抱えている正規社員では処理しきれなくなります。こうなると、商品の配達に遅延が起きたり、ミスが多くなったりするのは想像できます。そこで、契約期間が2~6ヶ月間の短期派遣社員を雇ったり、一部の業務を外部委託したりするのです。繁忙期が過ぎた後は、再び通常の人員配置に戻ります。
もう少しスケールを小さくして例えてみましょう。
あなたが小さなレストランの料理長兼オーナーだとします。正規従業員は厨房アシスタントとウェイトレスの二人だけ。普段はこの人数でも、十分にお客さんを満足させることが出来ます。
ある日突然、お店近くのスタジアムで、一ヶ月にわたるサッカーのトーナメントが開催されることになりました。お店が忙しくなるのは確実で、3人ではとても対応しきれません。あなたは新たに従業員を雇うことにします。しかし、トーナメント中は収入が増えるから従業員を養うことは出来ますが、いざ終わってしまうとたちまち余剰人員になり、人件費がかさんでしまいます。
こんな時に役に立つのがフレシキブル雇用。トーナメントの期間だけ雇い入れ、それが終わった後、引き続き雇用するかどうかも選択することが出来ます。また、臨時の従業員に特定の簡単な業務のみを(例えば配膳、オーダー、掃除など)させることによって、あなた達は大事な業務(調理、メニュー開発、接客など)に集中することが出来るのです。これによってお客さんの満足度を維持し、収益を確保できるのです。
フレシキブル雇用が盛んな業界と業種
フレシキブル雇用は中国全体で徐々に浸透していますが、その比率はまだ高くありません。2017年の統計によると、アメリカと日本における非正規雇用の割合はそれぞれ32%と42%ですが、中国は9%です(労務派遣も含む)。
中国国内でフレキシブル雇用が比較的浸透しているのはIT業界、メディア関連、それと小売・流通業界です。2017年時点で、この三っつの業界がフレキシブル雇用全体の半分以上(52%)を占めています。これらは、いずれも第三次産業に属することから、第三次産業が発達するほど、フレキシブル雇用が盛んになると言えるかもしれません。
中米日 2017年産業別GDP構成比
中国 | アメリカ | 日本 | |
第一次産業 | 9% | 0.9% | 1.2% |
第二次産業 | 40.5% | 18.5% | 26.7% |
第三次産業 | 50.5% | 80.7% | 72.1% |
目まぐるしく変わる市場環境に対応する
先に挙げたレストランの例の如く、フレキシブル雇用を活用することで、外部環境に合わせた人員配置をすることができます。
中国のIT業界は、日を追うごとに技術革新を行い、目覚ましい発展を遂げています。フレキシブル雇用を積極的に活用しなければ、生き抜くことが出来ないのかもしれません。
再度、レストランを例に、フレキシブル雇用のメリットを考えてみましょう。
- 中核スタッフを主要業務に集中させる
- サービスの質の維持・向上
- 業務プロセスの見直し
- 必要な能力を必要な時期に補える
正規雇用と非正規雇用のバランス
企業によっては、フレキシブル雇用が多大なメリットをもたらします。だからといって、非正規雇用の割合をいたずらに増やすことはできません。リスクも勿論あります。
- ノウハウの蓄積が困難
あなたが雇った臨時スタッフが、料理も上手で、メニュー開発もできる人だったとします。一時的には料理の質を維持・向上できるかもしれませんが、いなくなってしまうと元のレベルに戻ってしまう可能性があります。何故なら、ノウハウは臨時スタッフが掌握しているからです。
- 業務の標準化が困難
ウェイターを雇用した場合、未経験者ならばゼロから教えなくてはならず、経験者であってもあなたの店のシステムに慣れるまで時間がかかります。マニュアルを作成すれば、誰にでも教えることは出来ますが、細かい業務をマニュアル化するには、それなりの労力が要ります。
フレキシブル雇用にも一長一短があるとすれば、正規雇用とのバランスを調整する必要があります。それではどれくらいのバランスが理想的なのでしょうか。一部の専門家は、正規雇用と臨時雇用、アウトソースの割合を「1:1:1」にするのが理想的だと提唱しています。
三つ葉モデル
再度、レストランを例にして説明します。全体で9人の従業員を抱えるとした場合、そのうちの3人を正規雇用にして、店の管理や企画・運営にあたらせます。次の3人はアウトソースを使って、調理や接客など比較的専門的な業務を行います。最後の3人は、繁忙期やオフシーズンなどに合わせて、人数を柔軟に調整できるアルバイトなど臨時スタッフで、清掃や配達、オーダーなどの単純作業を担います。このように、3つの雇用形態で組織を構成することを「三つ葉モデル」と言い、将来このモデルが主要になると言われています。
もちろん、この比率は絶対ではありません。製造業をはじめとした労働密集型産業はアウトソースの割合が大きくなったり、ハイテクや技術開発、コンサルタントなどの知識集約型産業は正規雇用の割合が増えることもあるでしょう。
下の表は、アウトソースの活用が盛んな業界と職種をまとめたものです。
一般職 | 事務系 | 人事、総務、受付、秘書、助理 |
財務 | ||
アフターサービス | ||
その他(法務、購買、輸出入、PM) | ||
生産・サービス系 | 生産ライン | |
物流 | ||
娯楽・レジャー | ||
小売 | ||
その他(自動車、建築) | ||
専門職 | ライフサイエンス、医薬品開発 | |
IT系 | ||
その他 |
固定費を「変動費」に変え、変化にフレキシブルに対応する
正規労働者の人件費は、家賃や設備などと同じ固定費であり、生産量や受注量に関わりなく発生するコストでした。しかし、フレキシブル雇用を用いれば、必要な時にだけ必要な人数を動員したり、仕事量に合わせて報酬を支払うことも出来るので、変動費として計上することもできます。
今、中国では新型コロナウイルス感染症が蔓延しています。政府からの通達により操業に制限がかけられおり、いつ収束するかも分からない状態です。平常時の様に業務をすることができず、予期していた収益の確保が難しい状態ですが、それでも家賃や正社員の人件費といった固定費は発生し続けています。
「天有不测风云」
明日なにが起きるかも予測できない今、企業の人員構成や労働形態について再考する時期が来ているのかもしれません。
参考サイト:
・『中国灵活用工市场未来发展趋势分析』
http://www.zyrwork.com/post/7%E3%80%805.html
・『アメリカの経済』
https://ecodb.net/country/US/economy/
・『年次推計主要計数 生産(産業別GDP等)』
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h29/sankou/pdf/seisan_20190405.pdf#search='%E6%97%A5%E6%9C%AC+%E7%94%A3%E6%A5%AD%E5%88%A5+gdp'
・『中国の基本情報』
https://www.jilaf.or.jp/country/asia_information/AsiaInfos/view/37
・【灵活用工】对于灵活用工的一些深入思考
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